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ブラックダリア――ショウタイム!小説「「パンツァークラウンフェイセズ」」

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

吉上亮著「パンツァークラウンフェイセズ」です。 吉上先生のデビュー作です。これほどの作品をこの若さで書き上げたことにはこれからの期待がどうしても高まりますね。 西暦2045年、かつて東京と呼ばれた都市は大震災からの復興を経て積層現実都市イーヘヴンとして生まれ変わりました。 そのイーヘヴンを舞台に、黒き強化外骨格――黒花(ブラックダリア)を纏った街を守るヒーローと、白き強化外骨格――白奏(ホワイトジャズ)を纏った街の安全を脅かすテロリストとの戦いを描く物語……ということになります。 あらすじとしてはものすっごいストレートなヒーローものなんですが、その実態はややこしく、経済的正義と倫理的正義との葛藤や個人意志とはどういったものなのかを考えさせる舞台設定が用意され、二つの強化外骨格の色が示すように、黒と白はどちらが善玉で悪玉なのがはっきりとはされません。

 

舞台設定としてはそこまで目新しいものではないですが、しっかりと練りこまれています。 情報の集積と解析により、イーヘヴンでは個人個人の意志決定を補助する〈Un-Face〉という技術が使われており、その人をよりその人らしい行動へと導き、好ましくない風景や相手と自然に合わないよう配慮され誰もが「自分らしく」あれるという、大体そんな世界観です。 「あれ?これ一歩間違えれば大惨事じゃね?」という読者の危惧を一発で引き出す設定ですが、実際にそうであるのか微妙な形でストーリーは展開します。別の小説での台詞ですが「コンピュータは絶対に間違いを起こさない。

 

人間の間違いを忠実に実行するだけである」を踏まえた、どこまでも人間に責任が生じたストーリーです。 また、この作品はキリスト教的モチーフがよく使われています。そもそもイーヘヴンも極東の日本に築かれたユートピアに「ヘヴン」なんてつけたあたり「エデンの東」を彷彿とさせますしね。 ただ、このあたりのモチーフ解説は作中で詳しくはされておらず、どういったモチーフが使われているかということはしっかり描写されますが、あとは読者が調べて考えろというスタンスは考察のし甲斐があって、中々楽しいです。 生き生きとしたキャラクターたちの活躍、一人一人の人生なども入れ込みすぎない程度に程よく語られている点も魅力です。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

お恥ずかしながら、未だに仮面ライダーが好きなくらいのガキっぽいヒーロー好きでございまして……。 アイアンマンのような、パワードスーツを着込んだヒーローというのは三度の飯より大好きなのです。 あらすじ読んだら即レジに向かっていました。

その小説を読んで良かったと思う感想

この作品を出版されたハヤカワレーベルにふさわしい、SF的に解説、批評した文章は既にたくさんありますし、そういった作品をあまり読み込んでいない私がその点で評価しても仕方ないでしょう。 私がこの作品を好きな理由はただ一つ「ヒーローもの」だからです。 大体出撃時に「黒花(ブラックダリア)――ショウタイム!」なんて言う作品がヒーローものでないわけないでしょう。正気のいい年こいた大人はそんな罰ゲームみたいに恥ずかしい口上で同僚の出撃見送りませんって。 強化外骨格を着込んだヒーローというのは、改造人間や超自然的な力を持ったとかそのあたりから、一歩身近に進んだジャンルです。

 

平成仮面ライダーがこのあたり近いですね。平成ライダーの主人公のほとんどは、元々普通の青年でしたが、ある日変身ベルトなりアイテムなりを手にして強化外骨格を纏い、仮面ライダーとして戦うようになります。 この作品でも強化外骨格は3Dプリンタで印刷してしまえるくらいの気軽さで製造、改良されてしまいます。 こういった現実への近さが強化外骨格ヒーローであることを、パンツァークラウンフェイセズでは強く意識されています――が、しかし同時に「ヒーローとは何か?」を問い詰め続けます。 白の強化外骨格を纏った街を害するテロリスト、黒の強化外骨格を纏った街を守るヒーロー、この構図はなんと作中で放送されて高視聴率となり、非常に高い経済効果を生み出してしまったりしているのです。もちろん街の有力者はそれを支援し、応援するわけで。 それも含めて読者が当然のように不安に思う全てがコンピュータ任せの都市機能と、黒と白の逆転した善玉と悪玉の配色図。

 

これらはストーリー後半で全て繋がり「正義とは何か?」「ヒーローの役目とは?」「ヒーローのあるべき姿とは?」といったことが、行間から提示され続けるのです。 とくに私が感銘を受けた設定は、強化外骨格のナノマシン制御によって、着用者は与えられた「役割」によりふさわしい精神へと誘導されていく、ということです。 結果、ヒーローは個人的な私情をその活動に挟まず、全ての人を平等に助けるため戦うことになります。それこそ正しいヒーローの姿でありますが――そんな動機も魂も無き「正義」が、本当に正しいのでしょうか? こういった思想は私が常日頃ヒーローものを見聞きし、読むたびに思っていたことなので、よくぞテーマにしてくださいました。

その小説がオススメだと思う方は誰?

いい年こいてヒーロー好きな人から、いい年こいてなくてもヒーロー好きな人にオススメしたいです。 非常に練りこまれたSF的世界観設定を持っていますが、あえてそういうのを無視できる人の方が素直に楽しめるような気がします。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

恥ずかしいルビ振っていても悶絶しないであげてください。 冗談はともかくとして、キリスト教的世界観、とくにキリストの自己犠牲や七つの大罪あたりの知識があると、より楽しめるかと思います。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住