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ヒトを信じるという描いた小説「BATTLE ROYALE」

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

高見広春著「BATTLE ROYALE」です。 この作品について詳しく解説することは今更なような気もしますが、一時期大ブームになり映画化までされたあの問題作です。 ブームになった時期から既に10年以上経過しますが、デビュー作の小説でこれほど話題をかっさらい、後のサブカルチャーにも大きな影響を与えた作品は今のところ追従者がいないですね。 同時に、作者の次作が出版されないままかれこれ10年以上経ってしまいました。確かにあれほど売れれば、普通に慎ましい生活を送れば一生印税で食べていけるでしょうが、これほどの作品を書いたのですから、趣味か気晴らし的にほちほちと何かしら好きなものを書いていてほしいとやっぱり10年くらい思っています。

 

作品内の1エピソードである、灯台で暮らしていた少女たちの視点の物語が「天使たちの国境」として漫画化された時は、作者の高見先生が監修なさったので、完全に創作活動から手を引いたわけではないようでして、ちょっと希望を繋いでいます。 作品の話題に戻りますと、細かい解説やあらすじなどもうほとんどの人がご存知でしょうが、改めて説明致します。 「BATTLE ROYALE」は、中学生1クラスを強制的に殺し合いさせ、最後に生き残った一人だけが家に帰れるという「プログラム」の中で起きたことを描いた小説です。 原稿用紙1322枚に及ぶ長編である本作ですが、なぜそれほど長いのかというと1クラス42人の生徒が死ぬ様を一人一人克明に描いており「プログラム」がどのように推移していくかという描写が丁寧すぎるためです。

 

初めて手に取った時、前評判から既に覚悟していましたがまさかここまで死亡過程と描写がみっちり書き込まれているとは思っていなかったので驚きましたね。ただでさえ子ども同士の殺し合いという内容でヤバいのに、それを煽り文句とせず本当にクソ真面目に書いてしまっているという……額面に嘘なし。 作中でもややメタ的にツッコミが入れられていますが、ストーリーを面白くするため3-Bの面子は現実離れしたスーパー中学生が勢揃いしていますので、その死に様の数々、戦闘描写を「リアル」と一言では言いきれませんが、それでも泥臭い、死ぬことにドラマ性なんて用意されていないことを、一人一人描くことによってひしひしと教えられます。キャラによってはほとんどギャグ的なノリで死んでいることもありますしね。 ただ、このようなよく取り上げられるショッキングな側面だけがこの作品の魅力ではありません。というか、実態はかなり真っ直ぐで青臭いテーマを扱っているんですよね。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

これが流行っていた時は猫も杓子もバトロワでして……。 リアルで中学三年生を卒業したばかりであった私は、ちょっと中二病から抜け出して経済的にも余裕がでてきて、少しだけ素直に流行りというものを受け取ってやるか、と尊大な気持ちで購入しました。 はい、ちゃんと買いました。新刊で。自分のバイトの給料で。中古本でもなければ図書館で借りたわけでもないんです。手元にあるから細かい作中の数字やキャラ名がきちんと言えます。

その小説を読んで良かったと思う感想

おもいっきりネタバレになりますが、この作品、結局のところ生き残ったのは主人公とヒロインのたった二人だけなんですよね。そして「プログラム」から逃げ出したわけですから、政府に追われ命を狙われているという状況で物語は締めくくられます。 あえて非情なツッコミをすれば一人も二人もさして数に差はなく、その二人の命も危険な状態であるままというのなら、普通に一人が勝ち残っていた方がよほど建設的だったんでは?とも言えますが、数の上の問題ではないんですよね。

 

あるいは、もしかするとこの作品で描かれた「体制への反抗」「人を信じること」というものが、作中内の人物たちに浸透するという描写があったのなら、生存者ゼロでもハッピーエンド足りえただろうとも言えます。 実際にこの作品を全て読んだ後ならば、一人一人の死の重さが身に染みているのでこのようなツッコミはテーマ的に野暮なお話でもあるというのは語らずもがな。一人で勝ち残ったのと、二人で生き残ったのは全く意味が違う、と。 それでもなぜあえて言ったのかといいますと、正にそれがこの作品の肝だからです。 この作品では繰り返し、体制への批判が行われています。それは現実にある様々な社会制度、国家、日本人気質に対する批判ですが、それすらも正しい意味での強調(デフォルメ)であって、結局のところは「信じることって難しい」ということを、これだけの作中人物の死を積み重ねて描くうえでの演出にすぎないのです。

 

一人で勝ち残るのではなく、三人がお互いを信じ合ったからこそ、二人は生き残れた。 作中の多くの人物が、信じきれなかったことがきっかけで死んでいるのも大きいです。とくに「プログラム」管理をしている体制側への反撃が成功する一歩手前までいった三村信史の死の原因はそのあたりにあります。他にも、ストーリー終盤まで生き残った杉村、内海幸枝がリーダーとなっていた灯台の少女たちも「信じきれなかった」ことが原因で死亡しています。 このあたり、非情に厳しいのは「片方が信じていても、信じられた側が疑念を向けていれば、両方死んでしまう」ということ。信じ合うということは、片方だけの思いでは成立せず、そうでなければ搾取されるか破滅するかしかないのです。クラスメイト全員を信じようとした、日下友美子と北野雪子の死もまたそれを証明していると言えるでしょう。

 

二人が信じ合っていても、その二人が間違った者を信じれば破滅するのです。そして、相馬光子のような少女にも、命と引き換えに信じることでほんのわずかな救いを与えられたとしても、結局のところ本質までは変えられない。 だから、恐ろしいことに「人を信じよう」というのがこの作品のテーマではないのです。そういった綺麗事ではない。ハナから信じる気などない相手を信じたらデッドエンドを迎える以上、疑心暗鬼になるしかない。でも信じ合わなかったら生き残れない。故に、この作品のテーマは「信じることって難しい」であり、作中ラストは「二人で走り続けるしかない」わけです。信じる人を信じ、信じる相手を選びながら。 そういった、人生においてはある種当たり前のことであるのですが、それをここまで徹底的に戯画化した作中設定を作り上げ、浮き彫りにし、全く妥協することなく40人の中学生を殺すことによって描いたのですから、全く以て怪作と言わざるを得ません。

その小説がオススメだと思う方は誰?

大層なことを言っても基本的には娯楽小説ですから「中学生同士が生々しい殺し合いをする」というシチュエーションを受け入れられる限りは読めるかと思います。 そういう意味で、あまり右翼左翼とか気にしていない人こそ素直に受け止められるのでオススメしやすいですね。個人的に、この作品にある政治色や犯罪色は、味つけ程度のものとしか思っていないのでそれで変に惑わされない方が楽しめるかと思います。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

どうしても耐えられない描写とか表現、文章などはあると思います。何巻にも及ぶ大長編ではないですが、それでも長いのでそういうところは読み飛ばしてもいいかと。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住