みんなのエンタメレビュー

感動した映画や面白かったドラマなどを掲載しているブログとなります。

『暗いところで待ち合わせ』の小説がお勧めです

スポンサーリンク

あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

乙一著の『暗いところで待ち合わせ』です。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

もともと乙一の小説を好んで読んでいて、その流れの中で不思議なタイトルのこの小説を読むことになりました。 最初はタイトルから、ホラー系統の小説だと思って読み始めましたが、よい意味で期待を裏切られました。

その小説を読んで良かったと思う感想

『暗いところで待ち合わせ』は2人の主人公を軸に展開されます。 一人は印刷会社で工員として働く男性の大石アキヒロ、もう一人は事故により失明してしまった盲目の女性、本間ミチルです。 アキヒロは印刷会社の先輩とそりが合わず、その先輩が自らの女性遍歴を自慢する様子などが我慢出来ないでいるうちに嫌がらせに遭うようになり、その先輩の殺害を考えるようになります。 そんな時、ミチルが一人で暮らしている民家のすぐ目の前にある駅で、殺人事件が発生します。 アキヒロの先輩が、通勤時間帯にホームに突き落とされ、殺害されてしまうのです。 アキヒロは警察に追われ、ミチルの民家に逃げ込みます。ミチルが盲目であると言うことを知ったアキヒロはミチルに存在を悟られないように息を潜めて隠れ続けるとともに、ミチルへの親近感を増していきます。 『暗いところで待ち合わせ』は、このような展開から始まります。

 

この作品は、中盤までは心理派ミステリーとして読むことが出来ます。 すなわち、最初に犯人が誰か明示されていて、その犯人の心理を読み解きながら、いかに犯人が追い込まれていくかを読者が楽しむというスタイルのミステリーとして、読み進めるように誘導されているのです。 しかしそれが中盤で突然、覆されます。 あらかじめ仕掛けられていたトラップによって、真犯人が別にいるということが推察されるのです。 中盤以降、この作品は本格派のミステリーとして展開し始めます。 つまり、真犯人は誰なのかということを推測しながら話を読み進めていく必要に駆られるのです。 そして終盤になると、本格派ミステリーの王道さながらに、それまでちりばめられていた伏線から、真犯人につながる情報が提示されて、主人公達と読者は真犯人にたどり着くように設計されています。 このように、『暗いところで待ち合わせ』はまず、心理派と本格派の二流派の要素を併せ持った読み応えのあるミステリーとして仕上がっています。 事件がどのように解決し、犯人が誰なのか、王道のミステリーを読むときと同じように推理力を働かせながら読む楽しみが、この作品には含まれています。 しかし、この作品の魅力は謎解きだけに留まりません。

 

作品は3人称で物語られますが、アキヒロとミチル、ふたりの登場人物に交互に焦点が移り変わりながら、全体の物語が進んでいきます。 具体的には、アキヒロの視点で1歩分物語が進められると、半歩分物語は巻き戻されミチルの視点で1歩分物語が進められるという語りの構造をもっているのです。この語りの構造によって物語に深みが生まれていて、とても読み応えがある作品になっています。 特に、本間ミチルは失明してしまった盲目の女性です。盲目での生活とはどのようなものなのか、盲目というのはどんな感じなのか、ミチル視点からの語りでは、たとえば点字の成り立ちについての説明があったりして、盲目というものの感覚が実感を持って掴めるように描かれていて参考になります。 そして、この作品が最も優れているところは、2人の登場人物に控えめな救済が用意されているというところにあります。

 

アキヒロとミチル、2人とも内向的で孤独で、コミュニケーションに問題を抱えている、ごく普通の若者です。ひょんな事をきっかけに、共同生活を営むような状態に陥った2人は、会話をしないにもかかわらず相手の存在を少しずつ認識し、確認していくことで、関係性を深めていきます。 この作品は恋愛小説ではないのですが、その2人の関係性の深まり方が、きわめて丁寧に描き込まれているところが素晴らし印のです。 乙一氏の作品は、ミステリーであっても、読後にほんのりとした暖かみを感じる作品が多いのですが、『暗いところで待ち合わせ』についても同様に、読後にやさしい感情を抱くことができる作品になっています。

その小説がオススメだと思う方は誰?

この作品は広範囲の読者に喜ばれる作品です。 ミステリ好きはもちろん、純文学の読者が読んでもしっかり楽しめます。また乙一氏の作品は言語表現が難解ではなく、読みやすく書かれているため、ライトノベルが好きな若い読者も、一気に読める作品になっています。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

この作品は映画化されていますが、映画と小説はまったく別物と思った方が良いと思います。 作品には謎解きの要素もありますが、重要なのはアキヒロとミチル2人の登場人物が心を通わせてゆく仮定です。2人は碌な会話も交わさずに互いの存在を認識し、承認していきます。交互に変わる語り口が、その深まる関係性の描写を可能にしているわけですが、その過程は小説で読まない限り知ることは出来ないため、映画を見ている方であっても小説を読むことをおすすめします。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

38歳独身男性。福岡在住で、法人営業の仕事に従事しています。