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夏目漱石の最高傑作は「坊っちゃん」だと確信、私にとって「癒し」の小説です

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

夏目漱石坊っちゃん

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

初めて読んだのは小学校高学年の時。夏休みの宿題の「読書感想文」のために読んだと記憶しています。その時は宿題で読んだので、「読みやすかった」という以外、特別な感慨は持ちませんでした。 その後「文学青年」になった私は、高校から大学にかけて、年間300冊の本を読むようになりました。「坊っちゃん」を再読したのは、大学になってから。そして、「こんなにおもしろい小説だったのか!」と驚嘆したのです。 社会人になってからも、読書を趣味にし、多くの書籍、小説となじんできましたが、常に手元に置いて、繰り返し呼んでいる「座右の書」の1冊が「坊っちゃん」なのです。

その小説を読んで良かったと思う感想

私は漱石の小説をすべて読みました。漱石は38歳の時、処女小説「吾輩は猫である」を発表したという、大変遅咲きの作家です。享年49歳ですから、作家としての活動は10年ちょっとという短さ。そのため作品数が少なく、全作品読破もむずかしくない作家なのです。 若いころは「草枕」が漱石の最高傑作だと思っていましたが、中年以降「坊っちゃん」こそ、漱石のナンバーワン作品。日本近代文学でも3本の指に入る至高の作品だと確信しています。 私が考えるその魅力は3点。「リズミカルで歯切れの良い、完璧な文章」「スピーディな展開で楽しませる痛快ピカレスク」「下女の清を登場させて描き出した、人情味」の3つです。 漱石は日本近代文学で最高の名文家だと思いますが、この「坊っちゃん」はまさに間然するところのない、名文中の名文。江戸っ子・漱石らしいリズムで、子どもでも難なく読みきることができる。これはちょっとほかの作家、ほかの作品にない特長ではないでしょうか。 また、そのユーモアは明らかに漱石の愛した「江戸落語」の影響を強く受けたものであり、作品の「肝」になっていると思います。 「坊っちゃん」の「肝」はもう1つあって、それが「人情味」です。下女の清について、いかにもさらりと、余計な感情移入なしに語っていることが、かえって情感を深め、最後に「ほろり」とさせるのです。これも、江戸落語の「人情噺」からの影響だと、私は考えています。

 

特に、「四国辺の中学校」に赴任することになった主人公が、子どもの頃から世話になっている下女の清にそのことを告げるシーン。地名を聞いても学のない清はピンと来ず、主人公が「西のほうだよ」と教えると「箱根のさきですか手前ですか」と質問する。主人公は「随分もてあました」と語っていますが、この2人の飾り気のないやりとりの中から、主人公に対する清の愛情だけでなく、主人公の清に対するやさしい「まなざし」が、くっきり浮かび上がってくるのです。 ちなみに、漱石の少し後輩にあたる作家、泉鏡花の「婦系図」の舞台では、主人公の芸者が、恋人である学生と別れるシーンで、静岡へ行くという恋人に「静岡って、箱根より遠いんですか」と尋ねるセリフがあります。私見ですが、このセリフは「坊っちゃん」からヒントを得て作られたものではないでしょうか。

 

いずれも、当時の無学な女性をいとおしく思う作家の「まなざし」が感じられる、情味溢れるセリフだと思っています。 物語のテンポの良さはずば抜けていますし、赤シャツ、野だいこ、うらなり、山嵐などの脇役陣もキャラが立っていて、息をつかせぬ面白さです。 四国・松山弁と主人公の江戸弁の対比もあざやか。文章自体のおもしろさも抜群ですから、読み飽きるということがまったくありません。何度読んでも面白く、読めば気持ちがすっきり晴れるという、私にとって「癒し」の小説なのです。

その小説がオススメだと思う方は誰?

これは学生よりも社会人になってから読むべき小説ではないでしょうか。「大人の痛快活劇」の要素が強く、社会を経験したものでないと、本当の意味でその値打ちがわからないと思うのです。子どもにも読みやすい文体、わかりやすい内容なので、私のように読書感想文の課題図書にするケースも多いでしょうが、子どもにはその本当の面白さはわかりません。 大人になって社会へ出てから読むべき本。特に人生にさまざまな悩みを抱え、ストレスを溜め込んでしまっている「疲れた大人」にこそ、おすすめしたい本だと思います。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

おそらく、私がおすすめする大人の方たちは、子どものころ、あるいは学生時代に「坊っちゃん」を読んだ人が多いでしょう。読んでいなくても、おおよその内容は知っているにちがいありません。 そのため「いまさら『坊っちゃん』なんて」と敬遠してしまう人も少なくないでしょう。しかし、くりかえしますが、これは大人が読んでこそ面白く、日ごろの「憂さ」を晴らすのにはもってこいの小説なのです。 先入観をすべて捨て去って、アクション映画でも観るような気持ちで、手にとっていただきたいと思います。子どものころは長い小説だったようなイメージがありましたが、実は長編ではなく中篇。漱石の、たとえば「三四郎」などの長編小説と比べると、半分程度の長さしかないのです。あっというまに読了することまちがいなし。ぜひ、気楽に読んでいただきたいと思います。

カンタンな自己紹介・プロフィール

埼玉県在住の56歳、男性。自営で小売業を営んでいます。現在は妻と2人暮らしです。