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村上龍『ピアッシング』の疾走感は、すごいです。

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

村上龍著『ピアッシング』です。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

もともと村上龍のファンであることに加え、女性の乳房が露わになって、乳首に針を突き刺しているという、扇情的な装丁に惹かれて読むことになりました。

その小説を読んで良かったと思う感想

ピアッシング』は作家、村上龍の超絶技巧が発揮されている作品です。 物語は、作家自身があとがきで明らかにしているように「人を殺してみたい欲望を持つ男性」と「自殺願望がある女性」が出会う話です。 小さな子供が生まれたばかりの川島昌之は子供の寝顔を眺めていると、どうしても子供の肌をアイスピックで突き刺してしまう衝動を感じてしまい、子供を殺さないために、別の誰かターゲットに殺人することを計画し、仕事の休暇をとります。 川島は殺人のために風俗嬢をホテルの呼ぶのですが、そこで呼び出されたのが佐名田千秋です。 佐名田は精神に問題を抱えた、不安定な女性で自傷行為を繰り返していました。 佐名田は川島に呼ばれたホテルで、シャワーを浴びているうちに発作が起きて、自傷行為に及んでしまいます。佐名田の様子がおかしいことに気付いた川島は、シャワールームの中で血まみれになった佐名田を発見し、彼女の介抱に追われてしまいます。 物語は、このようにして始まります。 そして、川島昌之と佐名田千秋、ふたりの主人公に視点が交互に移り変わることで、進行していきます。 佐名田が異常を来しているときは、川島の視点で描かれ、川島がおかしくなっているときには佐名田の視点で描かれるのです。 そして、この作品最大の特徴は、その疾走感にあります。 おそらく作家の村上龍は、この作品の執筆を開始した時点で、すべての情景が頭に浮かんでいるはずです。 執筆を開始したら、終わりに向けて一度も休憩をとることなく、ただひたすら猛烈なスピードで書き上げたのではないかと思えるのです。

 

ひょっとしたら執筆期間は「1日」ではないか、と思えてしまうほどの執筆スピードを、作品から感じとれるのです。 読んでいると、まるで作者と追いかけっこをしているかのような感覚を抱きます。 これほどの疾走感を感じられる作品は、他にはありません。 作曲家のショパンやリストには、超絶技巧大練習曲や幻想即興曲のような楽曲が残されています。彼らは優れた作曲家であると共に優れたピアニストであり、それらの楽曲は、作曲家が自らの技量を駆使して即興で演奏したものが、後生に楽譜として残ったものと考えられます。同じ事が、この作品にも言えるのではないかと思えるのです。

 

ピアッシング』には余計な要素がありません。 すべての情報が過不足なく網羅されて、適切な順番で配置されています。作品内に無駄な要素がなく、最短距離で言葉が配置されているため、この作品は得体の知れない疾走感、ドライブ感を備えているのだと思えるのです。 これは作家・村上龍の超絶技巧があって初めて実現できることです。 この『ピアッシング』ほど、村上龍の超絶技巧を感じさせられる作品は、他にはありません。 また、この作品では、村上龍作品につきものの、グロテスクな描写が続きます。

 

そのグロテスクな描写は読む人を選ぶかもしれません。しかし、そのグロテスクさは、登場人物が感じている痛みをそのものを描き出すのに必須の要素です。 というのも、痛みはこの作品を理解するための重要な要素です。 人を傷つけることでしか、自分を表現出来ないという共通項をふたりの登場人物は持っています。その痛みの向かうベクトルが川島は他人に、佐名田は自分に向かっているというだけなのです。 そして痛みという共通項を通して2人はぶつかり合い、理解を深め、クライマックスでは一定の救済にたどり着くことになります。 このように『ピアッシング』は、物語そのものは奇抜な設定に基づき、人格が破綻している2人が出会い、互いがお互いを救ってしまう、そんな作品になっているのです。

その小説がオススメだと思う方は誰?

女性。特に風俗産業に従事している女性や性で傷ついた女性にお勧めです。 また、破壊衝動や自殺したいと思ったことがある方にも、お勧めできます。 描かれている内容はグロテスクで痛みを伴い、読み進めるのが困難かもしれません。 しかし読書に痛みが伴うことで、はじめて読者は救済を得ることができると思います。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

この作品の疾走感は、尋常ならざるものがあります。 作者は間違いなく短時間の間に書き上げているため、この小説を数週間かけて読むのであれば、スピードにおいて読者は作者に負けてしまうということになります。 読み始めたら、最後まで一気に読み終えるべきです。 休憩も取らず、トイレにも行かず、食事も取らず、とにかく最速のスピードで読み終えること、それがこの疾走感溢れる小説の読み方だと思います。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

38歳男性独身、福岡在住で法人営業の仕事に従事しています。