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妖精を見るには、妖精の目がいる小説「戦闘妖精・雪風」

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

神林長平著「戦闘妖精・雪風」です。 異星体ジャムと、そのジャムとの戦闘データを持ち帰ることだけを任務とする非情の特殊部隊、通称「ブーメラン戦隊」に所属する深井零中尉、そして彼の愛機である「雪風」の戦いを描いた物語です。 神林先生は日本を代表するSF作家であり、この雪風もまた神林先生の代表作と言えるでしょう。 先生の作品の特徴として、機械知性と人類の共存を考察した作品が多く、それが非常にストレートな形で打ち出されているのが雪風と言えます。 同時に、この作品はファンタジー要素が――とくにないのですが、ファンタジー知識をもっていればこれはある種の妖精譚(フェアリーテイル)であることがわかります。

 

それも伝統的で王道な。 行過ぎた科学は魔法と見分けがつかないとアーサー・C・クラーク先生はおっしゃいましたが、それに近いところでしょうか。とりあえず雪風では意識してそのあたりのギミックや描写を多く割かれています。 惑星フェアリィは普通に異世界ですし、妖精は人類と全く違う生態であるため、全く違う価値観を持っており、相互認識やコミュニケーションは難解を極める。そして、妖精郷に行ってしまった人間は正気を失い、たとえ人間の世界に帰ってきてもそこに居場所は最早ない。 それでも、妖精と人類は隣り合って自らの力を貸し合って生きている。なぜか?……まぁ、これ以上は実際に作品を読んでもらうとしまして。

 

雪風はシリーズであり、現在のところ「グッドラック―戦闘妖精・雪風」と「アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風」の3冊までが出ていますが、私がとくにお気に入りなのは、この第一冊目である無印の雪風。 「グッドラック」の頃もその名残はありますが、無印の雪風は雑誌連載であったという都合上からか連作短編でありまして、様々な角度やシチュエーションから、主人公の深井零中尉、ブッカー少佐、雪風FAFの様子が描かれ、飽きさせません。 また、続編に比べると文章も内容もかなりウェットで、情感に溢れた心理描写が多いのも特徴です。 個人的にはこの頃の悩める青少年であった深井中尉の方が好きなんですが、普通に雪風中毒のアブないあんちゃんでしかなかったという現実もあります(笑)。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

「グッドラック―戦闘妖精・雪風」が出版された時期、OVAアニメ版が制作されていたことをご存知の方は多いと思います。 戦闘シーンが素晴らしく、そしてメイヴちゃんという怪作まで派生しちゃいましたが、ともあれ、あのアニメ版で雪風を知った大変ミーハーなファン層です。 その後日本のSF小説を読み始め、小松左京から神林長平に移り、その第一作として上記のアニメ版の影響から雪風を最初に読みました。

その小説を読んで良かったと思う感想

零が属するブーメラン戦隊は、作中で「あらゆる意味で特殊(スペシャル)」と言われるほどに人格に問題のある人物が多く配属しています。 主人公の零も例外なく、いえむしろ突出してスペシャルな人間だとされていますが無印の頃は実際にはそれほどでもなく、上官であり友人であるブッカー少佐とはジョークを交し合いますし、心を許した者が死ねば涙を流し、幸せを目前にした男が死の淵に立てば命を助けようとする、かなり人間らしい人間であったりします。 FAFに送り込まれる人間は、地球で犯罪を犯した社会不適合者がほとんどです。言わば社会的弱者であり、もっと俗な言葉を使えば「負け組」です。 深井零もジェイムズ・ブッカーもスネに傷があり、地球に居場所が無かったのでフェアリィに逃げ込んできたという現実があるんですね。

 

そこで零は「雪風」というスーパーシルフと出会い、育て、相棒としてきたのですが、やがて成長した雪風は零の手から飛び立ち、制御不能の機械知性体となりジャムとの戦いを独自に行うようになっていきます。 人間が信じられないから機械を信じ、その機械からも突き放され、行き場を失くして行く男。それが無印時代の深井零というキャラクターです。 この無力感、喪失感が丁寧に描かれた無印の切なさはなんとも言いがたい。いかんせん、零がどう見てもただ不器用なだけで、本当はそれなりに気の良い青年として描かれているだけにその悲しさも一塩になります。 そして、無印の終盤近くでは、さんざんジャムと機械たちに無視され続けられてきた人間が、初めてこの戦いに必要なことを文字通り肌身を以って理解させられた零が生死不明のまま終わるわけです。

 

幸い私は続編出ている=零が生存しているのがわかっていて読んだ人間なので、別に読後感悪くもなんともなかったですが、もし無印だけ読んでいたら相当後味悪く感じたでしょうね。 ちなみに「グッドラック」のラストも同じような、絶望的な戦力差に立ち向かっていくような描写で終わるのでこりゃもうダメだわと思ったら「アンブロークンアロー」でしっかり帰還してきたので、ブーメランすぎるだろうと今さらながらのツッコミを入れるハメに。 リアルタイムで読んでいる読者ではありませんが(そもそも無印初版の頃は産まれてすらいません)、零の成長をひしひしと感じられるシリーズになったもんだと最近では思います。 ……神林先生がご存命中に終わるんだろうな?このシリーズ……。

その小説がオススメだと思う方は誰?

1巻は今まで紹介したように、神林長平作品としましてはかなりSF風味が薄く読みやすいので、SF初心者にオススメできます。 それでいてSF作家の大御所なので、ちゃんとSFの良さは味わえ、同時にファンタジー好きも喜ばせ、そっち方面のお姉さま方の需要にも応えるという神林作品の中でもとくに間口が広い作品です。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

面白いシリーズですが、10年で1冊単位で出て、未完であるということはご覚悟ください。 下手に10年に1冊出てしまうのと「アンブロークンアロー」のラストが初めてのいかにもな「つづく」な方式であっただけに、そういう点での不安は抱えることになります(笑)。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住