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殺戮の檻に閉じ込められた、さる少年の物語「ALL YOU NEED IS KILL」

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

桜坂洋著作「ALL YOU NEED IS KILL」です。 なんとトム・クルーズ主演で2014年ハリウッド映画化され、DEATH NOTEバクマンの作画担当であった小畑健の手によって漫画化もされています。 ただ、やはりこの作品の元は小説。小説ならではの良さがふんだんに使われている作品なので、ファンとしましては小説から入ってもらいたいですね。そんなに分厚くもない、一冊完結の作品ですし。 作品紹介させてもらいますと「ALL YOU NEED IS KILL」はSF小説であり、ギタイという怪物に地球が占領されようとしている、非常にオーソドックスすぎて、ある種チープなくらいの舞台設定です。 そんな地球の、ジャパンの、ボーソー半島で、主人公であるキリヤ・ケイジ初年兵は初陣で戦死するのですが――そこから、彼のループは始まります。

 

戦死すると、出撃前日の朝、ベッドの上で目覚める。自殺しても同じ。逃げてもギタイに追われ、殺される。正に閉じた永久牢獄……。 そんな世界に閉じ込められたキリヤ・ケイジは無限に重ねられる戦闘経験を生かし、届かぬ明日を目指し、必死にあがき始める――大体そんな感じのストーリーです。 プログラマシステムエンジニアである(現在は過去形かも)作者は相当なゲーマーのようでして、この作品の下敷きにはかつて80年代から90年代前半あたりに流行った、アホみたいに難易度の高かったゲームに対してのリスペクトが込められています。 このチープとすら言える世界観設定も、ゲームの都合上押し付けられる、孤軍奮闘の理由をさっくり説明するための空気を受け継いだものでしょう。

 

その乾いた世界観をよくぞここまで膨らませたものだと、むしろそっちに感心します。 理不尽な難易度であった、当時のゲーム。それをクリアするために、ロクな攻略情報メディアも無かったので、ただひたすら死亡とリトライを繰り返してクリアを目指す、あの淡々とした、しかし妙な充実感のある過程。 それを小説化するとこうなるんだなー、とも思います。もちろんこの作品の良さはそれだけではないのですが……。 ちなみに、まさかハリウッド映画化されるとは執筆時も出版時も誰も思ってなかったでしょうが、だからこそと言っていいでしょう。作中内で作品内の人物がハリウッド映画化について茶化しているシーンがあり、結果的に痛烈なブラックジョークになっていたりします。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

作者の桜坂洋先生のファンではあったのですが、先生のデビュー作である「よくわかる現代魔法」とは凄まじき毛色が(一見)違うので、あらすじと表紙を見た時にはびっくりしました。 しかし、そのあらすじと表紙だけで十分引きこまれました。そうこうしているうちに、これまたファンである神林長平先生が推薦文章まで帯に書かれちゃって、もうこりゃ読むしかねーなと。

その小説を読んで良かったと思う感想

「そういうこともあるだろう」 時として、非常に重大な事態に見舞われ、一瞬思考停止し、現実を受け入れたくない時が人生にはあります。そういう時、このフレーズが頭の中に浮かび上がり、そうして受け止めることにしている――というか、それが習慣つくぐらいこの作品を読み込んじゃったんですね。 上記の台詞というか、キリヤ・ケイジの地の文章による独白は、かなり重大な事実であり普通なら絶望するくらいの現実が判明した時に出てきて、あまりにもさらっとこの一言で片づけられてしまいます。 いかんせん、主人公であるキリヤ・ケイジはドライです。

 

正確に言うと、ストーリーが進むにつれてどんどん人間離れしたドライさを獲得していく。「そういうこともあるだろう」と独白した時にはストーリー後半なので、最早症状がここまで行ったのかという状況です。 ただ、現実というものは過酷なものでして、この作品全体に漂う乾ききった心情、現実をただ受け止めて機械的に解決方法を考えるという感覚を覚えたことは、人生において結構役に立っています。 それでも、この作品の最後はとてつもない切なさと、キリヤ・ケイジが人間らしさを取り戻すことで終わります。終わりのない繰り返しの果て、最早麻痺しきった「変化」への感覚。

 

「取り返しのつかないこと」をその身に受け止めることで、ようやっとキリヤはループを脱出した時、彼はある程度人間性を取り戻しています。そう、それこそ取り返しのつかない犠牲を支払って……。 あと、私は今でもそれなりにゲーマーなので、アホみたいな難易度を突きつけられ、ひたすらトライ&エラーを強いられる状況にゲーム内でなった時、この作品を思い出して逆に燃え上がります。

その小説がオススメだと思う方は誰?

ゲーマーにオススメしたいですね。作品内に明確なゲーム要素はないのですが、それでもゲーマーあるあるが転がっており、非常にストイックなカッコ良さがあります。 難易度の高いゲームに挑んで人生という時間を使い潰すのはゲーマーにとって自己責任ですが、クリアした時の、あの暗い妙なカタルシスが上手く再現されています。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

基本的に桜坂先生の文章はドライでさっぱりとしていますが、行間にびっしりと情感が込められているタイプの文章だと思います。 書かれたままのドライさで受け止めるてハードボイルド的感覚を味わうのも良いですが、行間をしっかりと想像するのも醍醐味ではないでしょうか。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住