読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

みんなのエンタメレビュー

感動した映画や面白かったドラマなどを掲載しているブログとなります。

「ぼくらは虚空に夜を視る」の小説がおすすめです

スポンサーリンク

あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

上遠野浩平著「ぼくらは虚空に夜を視る」です。 上遠野浩平といえばブギーポップシリーズですが、この作品は上遠野先生がブギーポップシリーズ以外の作品を精力的に様々な出版会社で発表し始めた2000年代前半の作品の一つです。 この作品も含めて「ナイトウォッチ三部作」とされ、三部作シリーズの最初の作品ですね。 ナイトウォッチ三部作はジャンル的にはSFであり、同時にかなり直球ストレートな青春ものでもあります。 発表された年代の時期で既に「昔懐かしいジュヴナイルSF」という印象を覚えました。だからかえって時代を問わずにオススメできます。

 

少々ネタバレになりますが、「ぼくらは虚空に夜を視る」はいわゆる仮想世界ものであり、発表された時は年代的に「マトリックス」と言われましたね。正にあの設定に近いです。 しかし遠未来の人類がコールドスリープで夢を見ている理由は、外宇宙への探索の旅に耐えるためでありまして……。 宇宙船を襲う謎の敵性意思「虚空牙」との戦いが一応大筋になっているんですが、実はこれ味つけであって、ナイトウォッチシリーズの本質は全シリーズにおいて、青春がテーマだと思っています。

 

SFとは言っても、本編で中核となる「相克過動励進原理」なるものは完全に創作であり、既存の理論を組み立てて仮想未来を描く、といったものではありません。 宇宙空間内の絶対的な孤独、果てがなく未来もない旅、曖昧でよって立つものがない現実……。 そういった作品内に作られたギミックが、そのまんま思春期の不安定さを象徴とするためのものである、という割り切りとハッタリの効かせ方が、さすが上遠野先生。

 

個人的なミクロの問題を、スケールの大きいマクロの問題に投影することで入れ子構造にしており、結果的に客観的な視点で見ることができるという物語構造になっている、とでも評すべきでしょうか。 やたら壮大なスケールで繰り広げられるようで、その実問題はただ一人、主人公の少年の心情問題に集約する。セカイ系と呼ばれるジャンルが流行った時代の小説であることを、ふと思い起こさせられます。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

上遠野浩平のファンなので、普通に書店で見かけたから即買っていた――はずです。いかんせん10年以上も前の話なので記憶が曖昧に……。

その小説を読んで良かったと思う感想

小説に限らずそうですが、主人公が魅力的な作品は作品全体が魅力的になると思います。 私的には同作者の「ビートのディシプリン」なんかもこれに入りますね。「ぼくらは虚空に夜を視る」の主人公、工藤兵吾もかなりピート・ビートに近い性格であり、女性の扱いが苦手で、精神的に繊細なくせに基本的にガサツで、周囲の人を守るためならいくらでも必死になり、逆境の中でこそ不屈に立ち上がる、戦闘の天才。

 

こういう不器用だけれど、ここぞという時には精神的な強さが輝く少年を描かせると上遠野先生はピカ一ですね。 この工藤少年は、自分なりに外宇宙にまで飛び出した人類とそれに脅威を与え続ける虚空牙との戦いや、自分の身の回りの人々のことを考え続けて一つの答えに到達するのですが……まぁそこはネタバレすぎるので伏せるとして、あまりにも身近なところに着地してしまうので、ある種拍子抜けするかもしれません。

 

しかしそこからのラストこそが、この作品をお気に入りの一冊として数える理由。今まで語られてきた、光速の何千倍もの速度で繰り広げられる宇宙空間での戦闘と、どこにでもある当たり前の現実的な街の風景。そのどちらにも無かった、ただただ美しい光景とあまりにも不安な現状が隣り合わせになるラスト――これは正に読んでみないとわからない魅力です。

その小説がオススメだと思う方は誰?

思春期の少年ですね。とかく精神的に不安定になっているあの時期の心に、この作品はやけに響きます。当時そうであった私が言うんだから間違いない。 あの頃――今だってまぁ考えますが、この現実にどれほどの価値があるのか。なんで生きているんだろう。生きなければいけないんだろう。わざわざ苦しい思いをして、人と人の軋轢に心身を砕き、大して希望も持てない見え透いた将来しかなく、けれど手を抜けばそれよりもっと悪い所へ落ちてしまう。

 

そんな人生にいったどれほどの意味があるんだろう? そういった漠然とした疑問や不安、ただただ惰性で生きているだけでしかない気持ち悪さが、この作品の設定の二重構造とどこか上手く噛み合い、なんとなしに「まぁ、世の中ってこんなもんかもしれないな」という一つの割り切りを見つけさせてくれます。 また、男の子っていうのはいつまでたってもヒーローに憧れるところがありますが、思春期ともなると真っ当なヒーローには斜に構えてしまうので、この作品の主人公のような等身大のヒーローの方が憧れやすいんですね。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

真剣に、ハードSFを求めて読もうと思うのであればやめておいた方がよいでしょう。何度も言いますが、この作品はあくまでも青春ものです。 逆に、良質な青春小説を求めている人には文句なしにオススメできます。それも、青春とは素晴らしいものではなく繭に覆われたような不安、刑期実行までの猶予期間と感じられた、もしくは感じているような方に……。 また、ナイトウォッチシリーズ三部作の第一作でもあったり、三部作且つ一冊一冊で綺麗に完結しているので、上遠野浩平作品の入門書としてもオススメできます。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住