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理系の推理小説としての晴れ舞台 『すべてがFになる』

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

 『すべてがFになる森博嗣

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

 たまたま仕事帰りに近所の図書館に立ち寄ったとき、著書順に並んでいる本棚ではなく、入口手前のほうに直近で返却されたばかりの本棚コーナーがあるじゃないですか、そこで偶然手に取ったのが出会いでした。

その小説を読んで良かったと思う感想

 最初は純粋な好奇心から始まりました。それも具体的に想像のつかない好奇心だったので、タイトルの「すべてがFになる」ってどういう意味だろう、という程度のものでしたが、読んだ後のスッキリ感はハンパじゃありませんでした。また数学的ないしはプログラミングに関しての分野には精通していない私にとっては目からウロコ、逆にいえば基本的には何の予備知識も期待値もない、まっさらな気持ちで読んだのも良かったのでしょう。もちろんそれらを差し引いても、ひとつズバ抜けていた小説に変わりはありませんが。これは間違いなく私にとって「ド」ストライクな推理小説でした。

 

ゆえにメフィスト賞の記念すべき第1回受賞作品ということを知ったのも、またS&Mシリーズの第1巻だったということも後になって知ったことになります。素人の私が言うのもおこがましいようですけど、村上春樹東野圭吾に比べれば、当時はまだ世間的には認知度の少ない作家だったのかもしれません。森博嗣と言っても、小説になじみのない人にとっては、押井監督が手掛けた映画『スカイ・クロラ』の原作者と言ったほうが分かりやすいのでしょうか。それより10年以上前から、静かにこの作品は世に出ていました。

 

物語シリーズで人気を博した西尾維新も彼のファンだったという理系作家の巨匠になります。  まずはなんと言っても犀川創平という著者をそのまま等身大にトレースしたような登場人物の素晴らしさ、その個性的なセリフまわし且つ精緻なロジックが良かった。憧れの先生とは彼のような人物にこそ相応しい。国立N大学工学部建築学助教授という高名な肩書きながら、優秀すぎて時には抜けるユーモアがあったり驚かされてばかりでした。そして本作のヒロイン、犀川の恩師の娘である西之園萌絵のお嬢さま的バイアスの妙味、何よりレトルト食品とのギャップが面白かった。  

 

この物語のストーリーは、大学のゼミの合宿として愛知県にある架空の島「妃真加島」を舞台に、みんなで楽しくキャンプしているときに悲劇が起きたというような簡単な殺人事件ではありません。メインは真賀田研究所の施設内で起きた密室殺人事件の真相に他なりませんからね。昨今の一部メディアで賑わっている「リケジョ」などと持て囃される以前から、理系に通暁していた貴志祐介瀬名秀明にも劣らぬ純然たる理系作家の雄。その淡々としたスタティックな着眼点には目を瞠るものがあるかと思いますし、殺人事件の中でも「密室」というカテゴリーに新たな道を打ち立てたパイオニアと言ってもいい。

 

もはや三次元的にではなく四次元的に捉えてこそ適った密室トリックの新境地なのです。そして犯人の動機にしても、例えばC・W・ミルズでいうところの「動機の語彙」やその迎合とは一線を画する非常識なスッキリ感があります。即ちよくある卑近な動機付けに落とし込む必要はないのです。ただのサイコパスでもなければ、ただの天才プログラマーでは済まされない、すべては真賀田四季博士という人間性の一言に尽きるでしょう。  そのほか、男勝りの図太い神経を持った国枝桃子にしても、その建築学科の助手というわりにサバサバしたキャラクターとの化学反応も面白かった。私が読んで感じた全体を通して言えることは、物語を紡ぐ「文体」にもあると思います。

 

これまで文学的にスタイリッシュな表現は苦手な私でしたが、いちいち文体のセンスがいい。軽妙にして簡潔、一切の無駄を省き、精緻にソフィスティケートされた珠玉のセリフまわし。ひとりひとりキャラが立っていて、誰を主人公にしてもスピンオフできそうな感じがすごいのです。そういったものが読み応えのあった理由のひとつでしょうね。そして読みやすいのに読後の陶酔感がハンパないところなんか、泥臭い芋焼酎というよりはまさに芳醇な高級ワインを堪能しているかのようでした。

その小説がオススメだと思う方は誰?

 理系の推理小説を読んでみたい人にはおススメです。そして純粋に予想を上回る超絶トリックを楽しみたい方にも必読かもしれません。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

 過度な期待はしないでください。課題表現などは一切なく、人によっては非常識というか、普通じゃないことが淡々と描かれていますの読み逃しなく。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

 私は30過ぎのおっさんです。理科系の大学を卒業したあとは、親元を離れアパートで一人暮らしをしています。勝手気ままな独身生活をもう10年以上も送っていると思います。