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みんなのエンタメレビュー

感動した映画や面白かったドラマなどを掲載しているブログとなります。

乙一初の長編作品「暗黒童話」

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

乙一著「暗黒童話」です。 17才の若さで衝撃的なデビューをした乙一先生ですが、大学に入り社会人になったあたりの頃はずいぶんと精神的に不安定でいらっしゃったようで、その頃の乙一作品はよく「白乙一」「黒乙一」の両極端な二種類に分かれると言われたものでした。 乙一先生は短編~中編作家として長い間活動しており「暗黒童話」は初の長編となった作品です。それまでに書かれた短編は、切ないけれど爽やかな読後感をもたらす作品と、とんでもなく理不尽な救いがない作品とがない交ぜのごちゃ混ぜになっており、執筆当時の精神不安定さを如実に現していたのかもしれません。

 

ちなみにその乙一先生、今は「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」の押井守監督の娘さんと結婚し、執筆活動を続けていらっしゃいます。基盤的な作品傾向は変わっていませんが、真っ黒な作品は減ってきましたし長編もずいぶんこなれましたね。 でも私はあえて、この精神不安定な時期に書かれた「暗黒童話」を推します。本当に不安だった「その時」だからこそ書けたものがある、というのはこの作品のラストにもある種通じるものがあり、かけがえのない、取り返しのつかない記録がここにあるのです。

 

ちなみに乙一先生は荒木飛呂彦先生の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのファンでもあり、同じ集英社繋がりということもあって逸早く第四部のノベル版を申し出たほどの大ファンです。そうして書き上げられた「The BOOK」も素晴らしい作品ですが、まぁそれは置いておいて。 ジョジョシリーズの影響が色濃い90年代末期~00年代前半の作品の多くは、作中人物に「能力」じみたものを持っている傾向が強く、それが中心となってストーリー展開が運ばれる、というパターンが定番とも言えるほどでした。

 

「暗黒童話」も例に漏れず、主人公の少女は移植された眼球の、元の持ち主の記憶映像を見ることになり、そして作中で起こる事件の犯人もまた、人智を越えた能力を持っています。 この二つの能力、過去と現在を交えたミステリーホラー小説。それが暗黒童話です。正に乙一作品黎明期の、長編第一作を象徴する作品と言えましょう。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

当時私は乙一作品を読み漁っており、初めての長編ということでこの作品を手に取りました。 乙一作品そのものは、普通にデビュー作の「夏と花火と私の死体」から入ったので、比較的順当なルートなんじゃないでしょうか。

その小説を読んで良かったと思う感想

乙一作品の主人公は、臆病で引っ込み思案だけれど、芯が強くここぞという時の行動力と決して退かない胆力で以て事態を解決するというパターンが少なくありません。 暗黒童話も例に漏れず、そういうタイプの陰気な少女が主人公なんですが……この娘がそうなったのは、記憶喪失による精神的土台の無さからくる不安定さによるものなので、決して生来のものではないんですよね。あるいは、生まれたての赤ん坊のような精神であり、そうならざるを得なかったとも言えます。

 

ここで乙一先生の心理描写の上手さが光ることになり、記憶を失う前の自分に対する強烈な劣等感と周囲に対する申し訳なさ、見捨てられることへの恐怖が丹念に描かれ、眼球が見せる記憶の映像にすがりついていく主人公の姿がなんとも悲しくなってきます。 自分にはないものが、常識外の方法で満たされて安心感を得るというのは、まぁ大概よくない結果を招きます。その結果、主人公である少女もまた真っ黒な「暗黒童話」の世界に引きずり込まれるのですが……しかし、当初は逃避のために訪れた場所、人に彼女は眼球の記憶がある故か、彼女自身から湧いて出た気持ちか、決して負けず挫けず目的を果たしました。 眼球の元の持ち主である青年の死の原因を突き止め、犯人を探り出し、少しだけ自分というものが持てた主人公は元の生活に戻って行きます。しかし、ここで作中で何度か仄めかされていた物語の終わりがやってきます。

 

作中で悩み、うつむき、失意に暮れ、人智を越えた出来事に遭遇しても、それでも目的を果たした「彼女」。それは、ある意味彼女の心理をずっと一人称で追いかけ続けた読者にすら通じます。けれど「彼女」は失われていた記憶を取り戻し、「菜深」という本来の少女に戻ってしまう。 全体的に「記憶」というテーマを扱い、ミステリー的なギミックにまで仕込んだこの物語は「自己」というものがなんなのか考えさせてくれ、同時に読者に対してある種の擬似的な死すら体験させてくれるのです。

その小説がオススメだと思う方は誰?

主人公に感情移入してナンボの小説なので、自分に自信がない、将来に対して不安を持つといった人などにオススメできます。 逆にそうでない人から見れば、主人公の心理や行動がうじうじしすぎていて、そのくせやたら作中のグロテスクな描写で気分が悪くなるってことも考えられますしね。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

正直なところ、乙一作品の入門書としてはあまりオススメできる作品ではないので、乙一作品を読んでいない方は他の作品から入った方が良いと思います。 長編なら「銃とチョコレート」、短編なら「失踪HOLIDAY」あたりを読んで気に入っていただければ、たぶん入り込めるのではないでしょうか。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住