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ヒトとケモノとバケモノの境界線「ルー=ガルー 忌避すべき狼」のっ小説が好き

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あなたが良いと思った小説と著者名を教えてください

京極夏彦著「ルー=ガルー 忌避すべき狼」です。 京極先生と言えば妖怪にちなんだ怪奇的な出来事を綴った――しかし同時に「この世には不思議な事など何も無いのだよ」をウリとするミステリー小説「京極堂」シリーズが代表作ですが、この作品はそれからおよそ100年後ほどの日本が舞台の、ミステリーサスペンス小説です。 根幹となる「妖怪」は「人狼」となり、ほとんどのキャラクターが女性、それも10代の少女ばかりとその点では京極先生の作品としてはかなり珍しいのですが、舞台とキャラクターを変えた京極堂シリーズといった趣でありまして。

 

比較的堅苦しい文体で、やたらと本編に関係あるのか無いのか怪しいオカルト系話題が飛び交い、かと思えば榎木津ばりにトチ狂った天災――もとい天才が大暴れするし、犯人はやっぱり憑き物に憑かれているしで、京極堂が好きな人は読めると思いますし、京極先生を知らない方にも巷説百物語シリーズの次にオススメしやすい作品です。 京極堂シリーズで言えば「魍魎の函」に雰囲気が近いでしょうか。

 

また、非常に薄いながらも「魍魎の函」とリンクするところもあります。 ちなみにこの作品、やたらとメディアミックスや企画といったものが多い作品でありまして、そもそも最初っからインターネットやアニメ雑誌などで行われた、近未来の設定公募を採用して生まれたという経緯があります。 さらに2000年代半ば頃にコミカライズ化、2010年にはアニメ映画化、2011年には続編が発売されるなど、かれこれ10年以上ちょくちょく何かしら動きがあったりします。 漫画好きな方はコミックス版を先に読んでみるのも良いでしょう。かなりエピソードは省略しているものの大筋は忠実でいて、ストーリー終盤は大胆なアレンジが加えられていたり、原作であまり活躍しなかったキャラクターが活躍したりなど、原作既読者も未読者も楽しめる作品です。

なぜ、その小説を読むことになったのでしょうか?

私は京極先生の作品は巷説百物語から入りまして、 「次は何を読むか……京極堂シリーズはぱらっとめくった時、関君の陰鬱な心理描写が肌に合わないなぁ……これはまた後で読むとして、もう少し他の軽いものは無いか……」 という時に、京極先生が近未来ものを書いていたということで手に取りました。 正直なところ、昔のことなので記憶が曖昧で、京極堂シリーズを1冊2冊読んだ前後だったのかうろ覚えです。

その小説を読んで良かったと思う感想

京極先生の作品の源流として「妖怪は人の心が産み出したものである」「妖怪は人の心に取り憑き、そうして人が人ではない『何か』になる」といった思想がありますが、この作品も例外ではなくテーマは人狼となっています。 人狼、つまりオオカミ男、赤ずきんちゃんなども含めて様々な視点、側面から分析しており、西洋妖怪を書かせても文句なしに面白いなぁ、と。

 

この作品では人狼→ヒトのカタチとケモノのカタチをしてヒトを喰うモノ→ヒトはケモノを喰って生きてきた→人類にとって食糧問題は大変な問題である→しかしこの社会で人類は合成食品によって食糧事情を改善した、とこのあたり哲学的なことを突き詰めています。 弱肉強食、食物連鎖を繋ぐものこそが生き物である。しかしこの作品の人類は生き物の肉を喰わなくなってしまった。じゃあ人間って生き物なのか?人狼はヒトを喰うから化け物だけれど、食物連鎖からは外れていない。どっちが化け物なんだ?というような、SF的考察ですね。

 

また、この作品は近未来ものであるわけなので、出版から10年経過した今ならまだもう少し「ちょっと先のこと」なのです。これがどういうことなのかというと、現代社会の批判がそっくりそのまま作中内で「批判の批判」としてしっぺ返しを喰らっているという事実です。 「現代」の若者がやがて社会を担い、新しい社会を築き上げた時、その社会で育った子どもたちはかつての若者たちに対してどういう思いを抱くか、そしてかつての若者たちは自分たちが築いた社会をどう受け止めるか――今現在、現実で当たり前に語られていることですが、この作品が書かれた当時「現代の若者」直撃の年齢だった私は、この当たり前のことにひどく感銘を受けまして。

 

人間は失敗しますし欲に溺れて社会を歪ませますし、その結果割を喰うのはいつの時代もその社会で育った子どもたち。でも、やがてその子どもも成長して社会を築いていく。いつまでもこの悲しい、不毛な繰り返しによって世の中というものは回ってきたのだな、というままならないものを感じてなりませんでした。 しかし、同時に、そんなこととは全く無関係に、怪獣映画、とくにガメラが大好きな私がこの作品を好きなのは当たり前だと言えます。 出版会社が徳間文庫なのでガメラと著作、版権を持っている会社は同じ!ということで思いっきりハメを外したオマージュがやられており、作中の雰囲気と物品を破壊しまくる図は爽快の一言。強いぞカメ!

その小説がオススメだと思う方は誰?

先述しましたが、京極夏彦作品に興味はあるけれど、未読の方の入門書の一つとしてオススメできます。 近未来SFや、ライトノベルからもう少し堅いものを読みたいなどという人にもどうでしょうか。

これからその小説を読もうと思っている方へのアドバイス

京極先生の作品の例に漏れず分厚くて重いです。物理的に。どっしり腰を据えて読める時に読むことをオススメします。

 

カンタンな自己紹介・プロフィール

独身・男・28・フリーター・近畿在住